
FIREというムーブメントがあります。FIREとは、
FI:Financial Independence(経済的自立)
RE:Retire Early(早期退職)
を組み合わせたことばです。(解雇するという意味ではありませんよ)
余裕をもって余生を暮らせるだけのまとまったお金をためて、収入源を勤め先からのサラリーに依存する生活から脱却しようとする活動、またはそれを達成した状態、と定義できるでしょうか。
元々は、FIREのムーブメントと投資とは、必ずしもセットでなければならないというわけではなかったようです。
しかし、FIまでのスピードを早めるためや、RE後の資産減少をおさえるために、投資の性質とマッチする部分が多く、今ではFIREと投資はセットで語られるのがもっぱらです。
さらには、投資をFIREの必須条件だと思いこんでしまうと、大きな落とし穴にはまる可能性があります。
具体的にいうと、FIREにこだわるあまり投資が失敗する可能性があります。そのせいで、逆にFIREが遅くなってしまうかもしれません。
今回はそんなお話です。
目次
FIREの年齢を決めておくのはNG
ありがちな目標設定
多くの個人投資家が、自分が採用している投資方法の期待リターンを想定し、自分のライフテージごとの入金力を加味し、◯年後に◯万円になっているだろうと見当をつけていることでしょう。
そして、きっとこんな目標を立てるでしょう。
「1億円をためて50歳で退職する!」
よくありがちなこの目標設定、これは危険以外の何物でもありません。
この目標の何がいけないのか
人生設計において明確なプランを策定すること自体はよいことです。
しかし、その計画(全体または一部)が、投資が成功することによってのみ成り立つものだとしたら、とても危険です。
きっと計画倒れになるか、投資の成果を無理に上げようとして投資を失敗させる引き金を自分で引いてしまうでしょう。
計画とは、いくつかの目標設定と達成状況のスケジュール管理です。
「1億円をためて50歳で退職する!」
一見、人生プランの一部として問題なさそうなこの目標の、何がいけないのでしょう?
「投資で資産を1億円にふやす」という目標ならばよいでしょう。
悪いのは、「50歳で1億円」と、時期と金額を合わせて決めてしまっていることです。
投資を失敗させる引き金を自分で引く
時期と金額を目標にかかげると、誰でもそれに向かって行動します。
ビジネスや試験勉強などの世界では、少し高い目標をかかげ、それに向かって計画通りに行動することはとてもよいことです。が、投資は違います。
ところが、投資の計画に「年平均 期待リターン◯%」と折り込んでいると、それを達成しそうにない年に、不安になります。不安になると、投資方法を見直すことを考えてしまったり、もっといい(と思う)投資先に乗り換えてしまったりします。
※何十年間かの平均がそのパーセントであればいいはずだとわかっているのに、人は目の前の不安に強く影響を受けるものです。
投資においてアクティブな行動が市場の平均的な成長にまず勝てないという前提に立つと、こういったパニック行動は、投資の成果にいい効果をもたらしません。
また、目標のFIREの年齢に近づいてきたときに不況がおとずれたら悲惨です。
引退する予定の年齢の前年に市場が暴落したらどうでしょう。来年からサラリーがゼロになることを、余裕をもって受け入れられるでしょうか。
目標の期限と金額をなんとしても達成しなければという気持ちが強くなることでしょう。そんな精神状態で、パニック行動を起こさない自信があるでしょうか。
つねに冷静でいることは投資家にとってなにより大事です。不安やあせり、興奮など過激な感情に駆られると、投資の成果を下げる行動をとってしまいがちです。
過激な感情にならないように自分の環境を整えておくことも、成功をおさめたい投資家にとって重要な仕事だと思います。
どういう目標がよいか
すばり、
「資産が1億円になったら退職を考えよう」
普通の人にとっては、目標はこのくらいにしておくのがいいでしょう。
決して「◯歳までに」という"期限"を設けないことです。
あえて入れるなら、
「資産が1億円になったら退職を考えよう。だいたい50~55歳くらいかな」
この程度に考えておくべきでしょう。
FIREできなかったら、ずっと働き続けるんです! この原則を忘れてはいけません。
勤め先からお給料をいただいて生活を成り立たせているわれわれ一般庶民は、既存の組織に奉仕してお金をもらうのが基本です。
自分の力でビジネスを立ち上げ「顧客から直接お金をもらう仕組みを作る能力」が無いから会社員になったのです。そんな人が投資にたよってどうにかなろうというのは、おこがましいことこの上ない。
そもそも株式投資それ自体、他力本願の最たるものです。他人の経済活動の"おこぼれ"をもらっているに過ぎません。自分ではコントロールできないものをコントロールできると思ってはいけません。
私がいつもTwitterで「謙虚な投資家が勝つ」と言っているのはこういう点にあります。謙虚な投資家は、傲慢な目標を立ててはいけません。
※「他人の経済活動のおこぼれをもらっている」というのは、悲観したり自分を卑下せよと言っているのではありません。企業の経済活動の恩恵にあずかるのは株主の正当な権利です。しかしほとんどの個人投資家は、株主としての役目を果たしたいというよりも、株式投資で自分のお金が増えたらいいなくらいにしか思っていないでしょうから、あえてこのような表現にしました。本来は、株主として自分の利益となるように、経営に働きかけることができます。
忘れられがちな投資方法決定の手順
ネット上で多くの投資家の方と交流していると、実にたくさんの"あぶなっかしさ"に遭遇します。
本来は、①まず自分のリスク許容度の範囲内で投資先・投資手法・資産配分を決めます。("普通の人"ならインデックス投資一択です)
②そしてその結果、期待リターンがどのくらいかが自動的に算出されます。(リターンはリスクのおまけ)
※この順番ですら間違っている人が多いです。
③最終的に、その期待リターンと自分の入金力、および引退後の想定支出額から、FIREできる年齢がおのずと決まるものです。
はじめにFIRE年齢と金額を決め、そこから期待リターンを逆算し、リスクを無視して投資先・投資方法を決めるのは、明らかに間違っています。
※間違っているというのは、投資が長続きしなかったり、投資の成果を毀損する可能性が高いという意味です。どんなやり方であっても、まったく投資しないよりは多少はいいでしょう。
そうは言っても雇われから脱却したい
現代の社会人は、つねに重い重圧やストレスにさらされています。
人間が狩猟採集民だった2万年前は、1日の労働時間は3時間程度だったのではないかという研究結果もあります。
日がのぼると、男衆が木の実や小動物を捕りに出かけ、女達は身の回りの仕事や集落の修繕をして待つ。その日食うだけの食料が見つかったら、あとは集落で半日以上団らんして過ごす。
こんな生活様式だったと推測されています。
※人類史を概観するには「サピエンス全史」がおすすめです。
現代は、近所の住民とはむしろ没交渉で、ビジネス上で赤の他人とトラブルなく物事を進めるのに神経を使ったり、自分の要求を通すために関係者全員の利害を調整しなければいけなかったり……狩猟採集民時代では考えられないほどたくさんの"仕事"を要求されます。
数万年程度では生物は進化しませんので、今の人間は、体が想定していないほど強いストレスを感じていることになります。
※ただ、そんな中にもやりがいを感じられたり、お金という形の報酬があるから我慢できているわけです。
FIREはそういったしがらみから開放される1つの手段ではありますが、投資をからめると非常に複雑になります。
今の生活環境から抜け出したいと思うあまりに、単純化しすぎて「この投資をすれば◯歳で引退できる」と決めてしまわないようにしましょう。
目標のFIRE時期には幅を持たせておき、「FIREはできるときにすればいいや」くらいに構えておく方が、かえっていい結果になると私は思います。

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