
突然ですがクイズです。
次の2つのポートフォリオのうち、効率がよいのはどちらでしょう?

正解は――
ポートフォリオ2(右)でした!
ここでいう「効率がよい」とは、長期間運用したときに「よりもうかる可能性が高い」といった意味です。
※「可能性が高い」というのは、五分五分かそれよりちょっと確率が高いということではありません。20~30年すれば十中八九、右のポートフォリオが勝つだろうというイメージです。
では2問目。次の2つのポートフォリオのうち、効率がよいのはどちらでしょう?

正解は――
ポートフォリオ4(右)でした!
どこか過去の特定の期間に限った話をしているのではありません。これから将来にかけて長期運用した場合の話です。
――現在、ちまたには色んなインデックス(指標)があり、色んなインデックスファンドがあります。低コストのファンドも多く、インデックス投資がしやすい環境が整っています。
投資家にとっての利便性は高いものの、インデックス投資をしたいと思ってもどれに投資すればよいのかわらないという方も多いのではないでしょうか。
本記事では、長期的(おおよそ20年以上)にインデックス投資をしていくにあたり、どんなポートフォリオで運用していくのが最も効率がよいかについてお話します。
本記事の想定読者は、いわゆる「普通の人」です。"投資が目的"ではなく、普段の生活をこれまでどおりに送りながら、老後のためや子供世代のために、手間暇かけずに(ほとんど放置して)お金をふやしたい人、です。
冒頭の円グラフの中身はあくまで例です。AppleやMicrosoftなど特定の銘柄がダメでこれが良いと言いたいわけではありません。本記事を読んでいただければ、ポートフォリオ2・4の方がベターと言った意味がわかるはずです。
目次
最適なポートフォリオを作るには
結論を出す前に、今回は原理から説明したいと思います。
株式市場に上場している企業が、A社、B社、C社の3社しかない世界を考えます。

え、急になに言いだすの?

(おぶち)
まあいいから、聞いて。
無数の投資家がこの3社の株を日々売買していて、株価も刻々と変化しています。
われわれ個人投資家がこの市場でもうけるには、どのように動けばいいでしょうか。

インデックス投資でしょ?

(おぶち)
まあそうなんだけどさ、もうちょっと聞いてよ。
現代ポートフォリオ理論(Modern portfolio theory, MPT)では、ある市場の全部の株を時価総額比で持つのが最も効率のよいポートフォリオだと結論しています。
この理論を正しいとするならば、A、B、Cそれぞれの会社の株をどのくらいずつ保有すればいいのでしょうか。
3社の現在の時価総額は、次のようになっているとします。
A社の時価総額: 6兆円
B社の時価総額: 3兆円
C社の時価総額: 1兆円
個人投資家が最適なポートフォリオを持つには、全部の会社(3社)の株を持てばいいのです。ただし、保有金額の比率が6:3:1になるように。
※株数ではありません。金額です。
今あなたが100万円を持っているなら、このように投資すれば最適なポートフォリオになります。
A社株: 60万円分
B社株: 30万円分
C社株: 10万円分
インデックスファンドの利用が必須
特殊な世界線の話をしましたが、"この世界"でも原理は同じです。実際にわれわれ投資家が同じこと(時価総額比で全部の株を持つ)を実践するにはどうしたらいいでしょうか。
"この世界"には、"あの世界"には存在しない問題が山積みです。
【問題1】市場には何千万社もの企業が存在する。上場企業の数千社にしぼったとしても、全部の会社の株を買うとなるととてつもなく高額な資金が必要
【問題2】市場全部の会社の数が多すぎて、買付注文する手間が膨大
【問題3】新しくできる企業や、倒産してしまう企業もあって、その都度対応していたら普段の生活を送る時間がなくなる
などなど。

(おぶち)
そこで利用するのが投資信託(ファンド)です。
投資信託は、たくさんの投資家からお金を集めて、代わりに対象の会社の株を買って保有してくれる仕組みです。
【問題1】はこれで解決です。
投資信託の資産が市場の時価総額比とつねに同じになるように、専門のファンドマネージャーが売買をやってくれます。企業が入れ替わっても対応してくれます。
【問題2】と【問題3】も解決です。
※時価総額加重平均のインデックスに連動するファンドもあれば、時価総額加重平均でないインデックスに連動するファンドもあります。ここでは前者の意味です。すべてのインデックスが時価総額加重平均というわけではありません。ダウ平均や日経平均など"単純平均"のインデックスもあります。
このように、個人投資家は、時価総額加重平均のインデックスに連動するファンドに投資する(を買う)だけで、現代ポートフォリオ理論がいう"最適なポートフォリオ"を持つことができるのです。
最適なポートフォリオを自分で崩す行為
現代ポートフォリオ理論の結論をいったん信じることとしましょう。
そうすると、冒頭のクイズの答えがわかりますね。
ポートフォリオ1・3(左)はどちらも、市場全部の会社の時価総額比になっていません。
※VOOとは、S&P500という市場全部の企業(505社)を時価総額比で保有できるインデックスファンドです。VTIは、S&P500を含めた全米の上場企業ほぼ全部(約3,500社)を時価総額比で保有できるインデックスファンドです。
個別銘柄を自分のセンスで組み合わせたり、複数のインデックスやテーマ別ETFなどを組み合わせることは、自分のポートフォリオをどんどん非効率にする行為といえます。時価総額比からかけ離れていきますからね。
あなたが「普通の人」であるなら、そんなもったいないことをする必要はありますか?
例えば、「コア&サテライト戦略」なるムーブメント(?)が横行しています。インデックスファンドを「コア」として7~9割くらい保有し、残り1~3割を「サテライト」として個別銘柄などを運用して市場平均越えを目指す、というようなものだそうです。
当然、時価総額加重平均のインデックスファンド100%のポートフォリオより効率は落ちます。
なぜこんなムーブメントが存在していて、いろんなところで宣伝され、幅をきかせているのでしょう?
理由の1つとして、証券会社にとってインデックスファンドをいくら売っても大した利益源にならず、手数料を多く取れる「その他の商品」を買わせたいから、というのがあると思います。
また、多くの個人投資家には、投資について学べば学ぶほど、1種類のインデックスファンド100%のポートフォリオなんてつまらなすぎてだんだんと他のことをやってみたくなる傾向があります。「コア&サテライト戦略」は、そんな自分に言い訳するのにもってこいのアイディアなのでしょう。
投資を一部、楽しみとしてやるのを止めはしませんが、他人に流されて、それが正攻法であると勘違いして「コア&サテライト戦略」をやってしまうのは、人生のトータルリターンで見れば愚の骨頂であると私は思います。
※もちろんこういった「インデックス投資+アクティブ投資」で市場平均に勝つ投資家もいます。でもそれはごく一握りですし、これを実践すれば勝てるという再現性のあるセオリーも存在しません。つまり市場平均に勝つには、今のところ"運"が必要です。明確な意思なくして自分のお金・自分の人生を運に託すのはやめてほしいです。
じゃあどの市場を選ぼう
ここまでの話で「市場全部の株を時価総額比で~」と言ってきましたが、いったいどの市場の話をしているのでしょうか。
アメリカ? 日本? 全世界? ――どこでもいいんですよ。基本的に株式市場であれば。
オーストラリアだって、フランスだって、南アフリカだっていいんです。アメリカの一部、例えばS&P500でもいいでしょう。市場とは、複数の企業のグループくらいの意味です。
※とはいえ会計基準が明快・公正で、参加者が多い市場が望ましいでしょう。
現代ポートフォリオ理論が言っているのは、"特定の企業のグループの中で"最も効率的なポートフォリオの持ち方です。
勘違いしてはいけないのは、現代ポートフォリオ理論では、「この市場(企業のグループ、国や地域)に投資すべき」という答えは出していない点です。
ですから、どの市場に投資するかは、投資家自身が選択しなければいけません。
Twitterや投資ブログで、
「時価総額加重平均のポートフォリオが最適!」
「これを実現するにはVOO、VTI、VTを持てばいい」
という発言をよく見かけます。半分正しくて半分誤りです。
この発言の前半は現代ポートフォリオ理論に基づいていますが、後半は発言者の主観によるものです。

(おぶち)
私もたまにこういう発言をしてしまいます。

反省してください。

(おぶち)
だって140字でインパクトあるツイートするにはしかたないんですもん。

言い訳しないでください。
とはいえ今は、多くの投資家がアメリカか全世界に目を向けています。
理由はいくつか挙げられます。
・過去100年以上右肩上がりだから
・低コストで投資できるから
多くの人はこのくらいの理由でアメリカか全世界かを選んでいることでしょう。
現代ポートフォリオ理論を正しいとみなしたとしても、どの市場に投資するかは投資家自身が決めなければいけないのです。
実践方法をもう少し掘り下げる
「自分が選択した市場の全部の株を時価総額比で持つ」を実践するには、次のような考え方ができます。
選択した市場: 全米
ETFのVTIと、投資信託の「楽天VTI」とは、同じ構成銘柄で同じ時価総額比です。
ということは、自分のポートフォリオの中にETFのVTIと投信の楽天VTIが共存していても、非効率にはならないことになります。
それぞれの中身の時価総額比が同一ですので、ETFのVTIと楽天VTIとの保有比率がどうであれ大丈夫です。
※「楽天VTI」は正確には「楽天・全米株式インデックス・ファンド」
選択した市場: S&P500
同じ考えで、ETFのVOOと、投資信託の「SBI・VOO」とは、同じ構成銘柄で同じ時価総額比です。
自分のポートフォリオの中にETFのVOOと投信のSBI・VOOが共存していても、非効率にはならないことになります。
※「SBI・VOO」は正確には「SBI・バンガード・S&P500インデックス・ファンド」
税制優遇制度と連携する
これらをふまえて、例えば、
iDeCoで楽天VTIを保有
つみたてNISAで楽天VTIを保有
特定口座でETFのVTIを保有
このような複数口座にまたがるポートフォリオを持っても、全体として効率を下げることにはなりません。
実際に私は、
つみたてNISAで楽天VTIを保有
特定口座でETFのVTIを保有
という持ち方をしています。
※勤め先の制約で私はiDeCoは利用できません。企業型確定拠出年金で選択できる投資信託にVTIと同じ時価総額比のものが無かったため、諦めています。ちなみに企業型確定拠出年金では全世界株式の投信100%にしています。
最後に
人生で長期投資ができるのは1回きりです。
世間には、どんな方法でもいいからまずやりながら徐々に投資を覚えていけばいいという人が一定数います。
ある意味優しさでしょう。が、少なくとも私は、そんなアドバイスは他人に言えません。無責任すぎて。
時間は待ってくれません。
「普通の人」が手間暇かけずにかなり高い効率を出せるセオリーがあるのにもかかわらず、それを放棄して、自己流のポートフォリオを持っている期間は、無駄です。
なのに、Twtitterや投資ブログでは、時価総額比からかけ離れた自己流ポートフォリオが本当に多い。
Twitterやブログで活動している投資家たちが世間一般の平均だとは思っていません。わざわざアカウントを作って投資の話をするくらいですから、「投資が好き」「投資が目的」の人たちが多い傾向にあることはわかっています。
そんな「投資が目的」「セオリーから外れたポートフォリオを持つのが目的」という明確な意志がある人が、"時価総額比からかけ離れたポートフォリオ"を持つことに、私は何も意見はありません。ご自由にやればいいと思います。
そうではなく、「普通の人」「お金をふやすことが目的で、投資は手段だ」という人が、Twitterに迷い込んで「普通でない人たち」のポートフォリオを見て真似てしまい、もうけられる機会を喪失していくのを私は黙って見ているのがつらいです。
そういった人たちにこの記事を読んでもらい、時価総額比のポートフォリオ作りに取り組んでもらえたら幸いです。
※しかも実践するのは他のどんな投資行動より簡単!
いつまでもTwitterの仲間の甘い言葉に惑わされて、効率の低いポートフォリオで運用し続けるか、高効率のポートフォリオにいち早くシフトするかは、あなた次第です。
現代ポートフォリオ理論を信じていいのか
現代ポートフォリオ理論の正当性をわかりやすく説明するのはとてもむずかしいです。私も人に教えられるくらい理解しているとは言えません。
まずはご自分で調べていただき、その間に私も勉強し、いずれ説明できるようになりたいと思います。
この理論を納得できなくても、時価総額比ポートフォリオを持つことは、市場平均に連動することに等しいです。
「市場平均を長期的に上回れる投資家(プロ・アマ含め)は全体の1~2割以下である」という事実を聞いたことはあるでしょう。
だとすれば「普通の人」が現代ポートフォリオ理論を実践することは理にかなっていると言えると思います。
少しでも市場平均から離れないようにする=時価総額比のポートフォリオを保つ。このくらいの理解でとりあえずはいいでしょう。

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